☆日銀の金融政策:1/2

マインドに訴えかける

日銀黒田総裁は9月5日の講演で、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を検証したところ、「金融市場の流動性低下」、「金融機関の収益圧縮」、「今後の貸出金利の下げ止まり」、「保険や年金の運用利回りの低下」、「貯蓄性の商品の一部で販売停止」、「退職給付債務増加による減益要因」などに悪影響が見られると認めた。

しかしながら、「こうした現象が直接的にマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きなものではないかもしれないが、マインドという面で、人々の間に広い意味での金融機能の持続性に対する不安をもたらし、経済活動に悪影響を及ぼす可能性には留意する必要がある」と述べた。

つまり、例えば「金融機関の収益圧縮」で、「地方銀行の6割以上が本業で赤字(金融庁試算)」になるが、そのこと自体は大した問題ではなく、そのことで人々のマインドが萎縮することが問題で、それがデフレにつながっていると解説した。

従って、日銀の金融政策の目的は、「『量的・質的金融緩和』を推進することによって、『フォワード・ルッキングな予想形成』を強化し、人々の予想物価上昇率を2%の『物価安定の目標』にアンカーさせること」だとし、人々のマインドをデフレに向けさせないことだとした。

そして、上記に挙げた多くの問題点は、「2%の物価安定の目標」というベネフィットのための、支払うべきコストなので、これまでの緩和政策を継続するとした。

参照:金融緩和政策の「総括的な検証」

9月21日に発表された金融政策は、5日の講演内容に沿った、マインドに訴えかけるものだった。(以下に要点を引用)

「具体的には、第1に、『フォワード・ルッキングな期待形成』を強めるため、オーバーシュート型コミットメントを採用することとした。『物価安定の目標』の実現とは、物価上昇率が、景気の変動などを均してみて、平均的に2%となることを意味する。現在の実績および予想の物価上昇率が2%よりも低いことを考えれば、『物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する』と約束することで、『物価安定の目標』の実現に対する人々の信認を高めることが適当であると判断した。

第2に、長年続いたデフレから人々のマインドを転換するためには、モメンタムが必要であり、『できるだけ早期に』2%を実現するとのコミットメントは堅持する。一方、『適合的な期待形成』の要素が強い予想物価上昇率を引き上げていくことには不確実性があり、時間がかかる可能性もある。こうした点を踏まえ、枠組みの中心にイールドカーブ・コントロールを据えることで、経済・物価・金融情勢に応じたより柔軟な対応を可能とし、政策の持続性を高めることが適当であると判断した。」

参照:金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」

「約束する」、「信任を高める」、「マインドを転換させる」、「コミットメントは堅持する」ことで、日本国民の「精神力」に訴えかけることが、日本の金融政策の根幹だ。

日本の名目GDPは1997年にピークをつけた。その年に消費税率が5%に引き上げられ、以降は20年近くにわたって基本的なトレンドはデフレだ。ピークを更新できていないので、低成長というより、マイナス成長だ。

参照図:日本の名目GDP推移
日本の名目GDP推移

このマイナス成長の主因を、私などは消費税だとするが、少子高齢化だとする人々もいる。中国を含む新興国や商品市場、地政学リスク、リーマンショックなどは、この20年間一貫してのマイナス要因だったわけではない。また、円高でも消費税導入以前は基本的にプラス成長だったので、1997年以降に一貫している日本の長期マイナス成長の要因だとは言えない。

一方で、日本銀行は「長年続いたデフレから人々のマインドを転換する」とし、長期マイナス成長は日本人の精神力が弱いからだとしている。
ある意味、ネガティブなマインドコントロール下にあるとの見方だ。

そして、気持ちの持ち方次第で、「金融市場の流動性低下」、「金融機関の収益圧縮」、「今後の貸出金利の下げ止まり」、「保険や年金の運用利回りの低下」、「貯蓄性の商品の一部で販売停止」、「退職給付債務増加による減益要因」などといった数々のコストを支払っても、物価上昇というベネフィットを享受できるようになるという。そのための政策が「人々の予想物価上昇率を2%の『物価安定の目標』にアンカーさせること」だとする。

ここまで、すっと読み進められた方は、私は「危うい」と感じる。つまり、「物量で大きく劣っていても、精神力で戦争に勝てる」。あるいは、「戦争放棄と宣言すれば、戦争とは無縁でいられる」という、マインド絶対主義に通じるからだ。気持ちが重要なのは言うまでもないが、絶対ではない。
日銀の政策は本末転倒で、「何かがおかしい」と感じて欲しいものだ。

次回は、21日に発表された金融緩和強化のための新しい枠組みについて述べる。

【次回記事】☆日銀の金融政策:2/2

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。