FXコラム

薬の飲み過ぎは毒

【著者】

10月4日、5日の欧州の主要国債市場は、ECBが量的緩和のテーパリング(段階的な縮小)を考慮しているという話題で軒並み売られた。ユーロ圏の複数の中央銀行当局者が、現時点での量的緩和終了時期となっている2017年3月前に、段階的に月100億ユーロずつ買い入れペースを落としていく可能性があると明らかにしたという。5日には、欧州の株式市場にも売りが波及した。

一方で、ECBは4日、「政策委員会ではこのようなテーマを話し合っていない。ドラギ総裁が前回の記者会見や最近の欧州議会での証言で述べた通りだ」と述べ、3月以降も月800億ユーロの現行ペースで量的緩和を延長する可能性も依然排除されていないとした。ECBの定例会合は量的緩和終了時期まで、10月20日、12月8日、2017年1月19日、3月9日の4回開催される予定。

4日の米国債市場では、リッチモンド連銀のラッカー総裁が、現状でも米政策金利は1.5%であるべきだと述べ、利上げは段階的というより、速やかに行うべきだと述べた。この発言を受けて、4日、5日と米国債も売られ、ここにきて、債券市場に逆風が吹き始めている。米国内の利上げ環境は、随分前から整ってはいるものの、FRBは国外の金融市場を考慮して、昨年末の0%から0.25%への利上げだけに留めている。

ECBの量的緩和は、ユーロ圏が国家の複合体であるが故の困難を抱えている。国債買い入れを、ユーロ政府への出資比率や国債市場の規模に応じての買い入れといった定量的な対応で行うのが適当なのか、あるいは、問題国の国債を多く買って支援に代えることが適当なのかの意見が割れている。また、問題国の債務を引き受ければECBのクレジットが悪化するので、逆に信用リスクの低い優良国の国債を多く買うべきだとの意見も見られる。これは、社債でも同様の問題となっている。

また、ECBによるマイナス金利政策が銀行部門に与える悪影響も顕著になってきている。欧州の銀行は、ドイツのコメルツ銀行や、オランダのINGなど、9月だけで2万人を超える人員削減を発表した。デフレ対策のはずの金融緩和が、デフレの原因をつくっているのだ。このことは、ドイツ銀行が今の難局を乗り切っても、銀行経営の環境は厳しいままなのを示している。

マイナス金利政策が銀行部門に与える悪影響は、日本でも同じで、先日、金融庁は地銀の6割以上が本業で赤字になると試算した。また、先の金融政策会合で、日銀は量的緩和での国債購入額を、年間80兆円を「めど」とし、これまでの無制限から後退させた。また、マネタリーベースの対名目GDP比率は現在、日本は約80%、米国・ユーロエリアは約20%だとし、量的緩和の限界を示唆した。

ECBのテーパリングは、肯定も否定も、当局筋からの情報らしいので、私にはどちらが真実かは分からない。分かっているのは、世界的な超低金利、数年で数倍にもなるような資金供給は、もはや効果より弊害の方が大きいということだ。薬を飲み過ぎれば毒になる。
昔、風邪薬を大量に飲ませた殺人事件があったのを思い出した。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。