FXコラム

2回目のTV討論会を終えて

【著者】

:2回目のTV討論会が終わったアメリカ大統領選について、どう思われますか?

米大統領選については、私がその筋の専門家以上のコメントを提供できるとは思えないのですが、何も思わないでいる訳ではないので、感想文のようなもので良ければ、お読み下さい。

2015年6月にトランプ氏が出馬を表明した時点で、問題児ともいえる同候補が、共和党の大統領候補になるとは、ほとんど誰も想像していなかったと思います。同候補を支持している人たちでさえ、こうしてTV討論会までこなしている姿を、1年前に想像できたでしょうか? 同氏は、少なくとも米大統領候補のイメージを根底から変えてしまったように思えます。

私はトランプ氏の戦い方に、米プロレスでの悪役(ヒール)の姿を重ねて見ています。米プロレスに対し、格闘技としての強弱の決着や、プロレス技の応酬を期待する人たちもいるでしょうが、子供番組のような、正義の味方と悪役とのショーとして見る人たちも多くいます。とはいえ、観客には大人も多いので、子供番組のように、単に正義の味方を応援しているわけではありません。米プロレスでの正義の味方はしばしば、融通の利かない、くそ真面目な、間抜けな役どころとして描かれます。

共和党からの指名争いでは、悪役のダーティな戦いに、対抗すれば自分もダーティとなって今後の(正義の味方としての)政治生命が断たれ、対抗しなければやられっ放しなので、正義の味方の全員がリングから降りてしまいました。

米国人にとっての最大の懸念とは何か、ご存知ですか? 「自国政府」です。
警察官によるアフリカ系米人射殺が相次ぎ、「黒人の命だって大切だ」との反警察運動が全米レベルで起きています。反対に警察官殺害事件も起きています。

日本人にとっては、銃器による事件が多い米国で、どうして銃器規制が進まないのかが不思議ですが、「自国政府」が最大の懸念であり、自分たちに危害を加える恐れがあるのが、街のならず者たちだけでなく、警察官もそうだとすれば、一般国民は銃を手放さない、手放せないのも、理解できなくはありません。米国人は、自分は白人だから大丈夫、ヒスパニックやアジア系だからと、必ずしも安心してはいないように思えます。

そういえば、西部劇でも、西部の開拓民を苦しめるのは、インデアンや牛泥棒だけでなく、保安官や、街の有力者でした。自分と自分の家族を守るのは、仲間と銃だけでした。敗戦国となったことがない米国は、そのまま武装解除が行われていないという見方も可能かもしれません。

もちろん、政府への懸念はこうした銃器による危害だけではありません。格差拡大、医療費暴騰、奨学金ローン、退役軍人への処遇など、常に人生に対する危機感を抱きながら生きていることへの懸念です。クリントン氏が反感を持たれているのも、いわゆるエスタブリッシュメントで、正義の味方を演じているからだとも言えます。

「偉い人は嘘をつく」。911の真相や、イラク、アフガニスタンへの侵攻の真相、ウィキリークスや、スノウデン氏の暴露などで、一般の米国人が自国政府を疑うようになりました。「チェンジ」を訴えかけて大統領になったオバマ氏も、911の首謀者とされたビンラディン氏を裁判にかけずに虐殺したことで、真実に蓋をしてしまいました。クリントン氏は、自宅で家族の面前で行われたビンラディン氏虐殺シーン放映に拍手喝采をした米政府要人の1人でした。

トランプ氏は911の真相や、イラク戦争、プーチン大統領などについても、メディアの報道だけしか信じない人には、途方もないでたらめばかりを並べています。
また、正義の味方の嘘を暴くことで、悪役のダーティな生き方を、本音に忠実な生き方だと、こちらは詭弁を弄しています。それでも、支持率が伸ばせるのは、米国人の正義の味方への不信感の強さの表れではないですか?

メディアのあれだけのキャンペーンにも関わらず、英国人はブレグジットを決めました。日本でも、原発がなければ、日本は日常生活すら立ちいかないと信じている人たちはいなくなりました。ブレグジットでも、原発でも、反対意見は「無知」だとされていました。「偉い人は嘘をつく」。歴代の都知事には、随分と騙されました。
トランプ氏の支持者たちは「無知」なだけだと思わされている人たちこそ、騙されているのかもしれません。

あんなトランプ氏ですら、あれだけの支持が得られる。日本の政治家たちも、そのことをチャンス到来だと捉えるか、大ピンチだと捉えるか? エスタブリッシュメントや、正義の味方を演じているだけの人たちには、大ピンチなのでしょう。

その意味でも、米大統領選は興味深いと言えるでしょう。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。