FXコラム

円安(株高)はどこまで進む?

【著者】

米大統領選挙が終わり、株式市場が好調だ。米株は11月21日に、ラッセル2000小型株指数を含む主要4株価指数が、1999年12月以来で初めて同じ日に過去最高値を更新して引けた。同主要4指数は22日も続伸、23日はナスダック総合指数以外の3指数が続伸した。今夜、24日は感謝祭休場。

ラッセル2000は23日までに14営業日連続で上昇、1996年2月6日以来の連騰となった。最高値は8日連続で更新中。S&P500大型株指数とダウ工業株平均は3日連続で更新している。この間の上昇率はラッセル2000が16%で、ダウの6.4%を大きく上回った。ラッセル2000は、1996年2月6日までは15連騰したが、この時の上昇率は6.1%に過ぎなかった。

ラッセル2000社の平均時価総額は23日時点で18億2000万ドル。一方のダウ30社の平均は1839億8000万ドルとなっている。

選挙前には、トランプ氏が優勢となると株が売られていたので、当選後に買われるのは、おかしいと言えば、おかしい。しかし、兎にも角にも大統領が決まったということで、大きなリスク要因が1つ減ったと考えれば、これまでの過度なリスク回避シナリオの見直しが入るのも頷ける。

一方、議会選で共和党が両院での多数派を維持したことで、金融規制改革法(ドッド・フランク法)が、トランプ共和党政権下で緩和されるという思惑が働いて、銀行株が急騰した。銀行株の上昇は、長期金利の上昇、長短金利差の拡大が、銀行の本業収益を押し上げることも大きい。

いずれにせよ、投資家はカネ余りで、前向きの材料があれば投資したいので、トランプ大統領のポジティブな側面を探している。なかでも大きな材料となりそうなのが、減税案だ。

減税案は、
1)法人税率を35%から15%に引き下げるというもの。

2)企業が海外に溜め込んでいる巨額な資金を国内に還流させるために、レパトリ時にかかる税金を35%から10%に引き下げるもの。

3)個人所得税を現行の7段階の累進課税率を3段階とし、最高税率は39.6%から33%に、以下25%、12%に引き下げるというもの。

4)キャピタルゲイン並びに配当に対する減税を延長するというものだ。

加えて、相続税の撤廃などで、合わせて10年間で4兆ドルから5.4兆ドルの規模で、名目GDP比2.8%前後と、平時において実施される減税としては空前の規模になると言われている。

この大減税案が実施されると、1)景気拡大、2)インフレ率上昇、3)財政赤字拡大、4)国債発行増、5)それらに伴う長期金利上昇、6)株高、7)ドル高になると予測されている。1)~4)を織り込んで、既に5)~7)が進行している。

もっとも、1)景気拡大、6)株高は、3)財政赤字の縮小要因だ。一方で、7)ドル高は、1)景気拡大、2)インフレ率上昇の阻害要因となる。

減税案のうち、外為市場が最も注目しているが、レパトリ減税だ。

米S&P500企業が1999年以降に国外で積み上げた利益は3兆ドルを優に超える。
とはいえ、多くは海外で再投資されており、国内に還流できる現金は約1兆ドルと言われている。

これらが、すべて還流してきても、大量のドル買いにつながるとは限らない。
どの企業がどれだけの現預金を外貨のままで保有しているのかは不明だが、全体では90%は既にドルに換えていると推測されている。つまり、最大で1000億ドルのドル買いが起きる可能性があるのだ。

リパトリ税には前例がある。2005年に米国投資法(HIA:US Homeland Investment Act) が1年限りの時限立法として実施され、リパトリ税が35%から5.35%に引き下げられた際には、年初の101円台から年末には120円台まで円安となった。この時には、大量の資金が還流したと言われている。

しかし、この時の円安局面と、今回の円安局面に共通点と相違点とがある。
共通点はリパトリ税(今回はまだ思惑)と、金利差拡大だ。日米金利差拡大により円安ドル高が進行した。

相違点は、前回は日米の短期金利差が拡大し、それが円安ドル高につながった。
当時の米10年国債の利回りはほぼ横ばいで、日米10年国債利回り較差も、基本的には横ばいだった。

参照:米国債利回りと、日米利回り較差―1(出所:日米財務省)
日米金利差2005

今回は、日米の短期金利差よりも、長期金利差の拡大が円安ドル高につながっている。日本の長期金利も上昇気味だが、それ以上に米国の長期金利が上昇しているためだ。米国債の利回りより、利回り較差の方が大きいのは、日本国債がマイナス利回りであるためだ。

参照:米国債利回りと、日米利回り較差―2(出所:日米財務省)
usjpntreasury

前回に米国の短期金利が急上昇した理由は明らかだ。米連銀が政策金利を急上昇させたからだ。超短期金利であるFFレート(政策金利)に短期国債は連動するが、長期金利にはインフレ率など別の思惑が働く。短期金利の上昇はインフレ率低下につながるので、インフレ率に反応する長期金利の上昇圧力が和らぐのだ。

参照:日米政策金利の推移(出所:日米中央銀行)
日米金利差

米連銀の今回の利上げは緩やかなものとなる。ジャンク債を含めた債券市場は買われ過ぎの状態が続いていたので、今後も売り物が予想され、米長期金利は上向きだ。一方で、日本の長期金利はイールドカーブ・コントロールのために、ゼロ近辺で推移する。
つまり、今後も日米10年国債利回り較差は拡大し続ける可能性が高い。

一方の外為市場は、2016年初来、円買いドル売りで攻めてきて、円安ドル高進行中の先週時点の直近のデータでも、まだドル円ロングにはなっていない。

参照:IMM円先物ポジション(出所:IMM)
imm

ラッセル2000は14連騰で、16%上昇した。このような短期間で企業業績が大きく変わることはないので、米株は割高となった。頑固な投資基準を持つ人たちが、警戒感を持つようになる。

一方で、世界はまだ空前のカネ余りだ。資金供給を止めた米連銀でも、バランスシートの規模は維持している。他の主要国は未だ拡大中だ。日欧はマイナス金利政策、利上げ基調の米連銀でさえ、史上空前の超低金利水準に張り付いている。それで、債券はマイナス利回りにまで買われた。投資基準を言うならば、マイナス利回りこそあり得ない。そういった時代に生きる投資家が、株価の割高を懸念するのは、ポイントがずれていると言わざるを得ない。

ドルも、株も、売られてもたんなる調整。基調はまだまだ上がありそうだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。