FXコラム

後の先

【著者】

PCでビデオ映像を観ると、最後に分割画面でいくつかの「お勧め映像」が出てくる。先日、「素人には無気力試合に見える、剣道の達人同士の試合」というものがあった。興味本位にチラッと映像を確認したが、成程、両者が睨み合って突っ立っているだけの試合だった。彼らが本当に達人同士なのかは知らない。剣道日本一の決定戦でも、もっと動きは見られるものだ。とはいえ、両者が睨み合って突っ立っているには理由があるのだ。いわゆる、「後の先」だ。ネットで調べると、以下のような説明がある。

1)後の先(ごのせん):剣道で、相手の動きに応じて打つこと。剣道の戦法の1つ。

2)後の先(ごのせん):双葉山が得意とした理想の立ち合い。相手より一瞬あとに立ちながら、あたり合ったあとには先をとっている相撲の立ち合い。

3)ごのせんのこうげき【後の先の攻撃】:空手の攻撃法の一つで、相手の攻撃を防御して反撃に転じるとき、防御と攻撃が一連の動作となるような攻撃法。相手が打ってきたパンチをはね上げるようにして打つ、ボクシングのカウンターとイメージが似ている。

ビデオで観た達人同士は、お互いの出方を待ち続けていたのだ。その意味では、自分から仕掛けない合気道は、すべての技が「後の先」かも知れない。火の粉を払う、飛んで来る虫に目を閉じるのに、似た行為だ。その時、避けるだけではなく、瞬時に攻撃に転じるのだ。蚊なら、叩き潰す。

金融市場のマーケットメーカーは、顧客に建値を提示し、売り買いされることで、「後の先」となる。顧客に売り買いされた時、同じ方向に売り買いしてカバー取引を行うか、顧客と反対方向に売り買いして逆に攻めていくか、あるいは、何もしないで売り買いされたポジションのままに放置するかを、瞬時に決めなくてはならない。大口の顧客に対しては、ほとんどの場合、カバー取引を行うのだが、その時に売り買いする量で損益が決まる。

マーケットメーカーに象徴されるように、相場は、基本的に対処の連続だ。予想が常に当たるという人は、リーマンショックや、ブレグジット、トランプショックを振り返ってみても、限られた少数の人たちだ。そして、それらを予想していた人が、予想通りに収益を上げられたかどうかは、また別の話となる。しかし、「後の先」と、どんな動きにでも対処する準備をしていた人たちは、その後の動きで攻撃し、収益に結び付けることができる。

ビデオのような睨み合いは、相手の「後の先」を恐れて、動けなくなった状態だ。その場合は、引き分けがある試合ならばいいが、真剣勝負だと、多くの場合は外部要因によって決着がつく。または、体力、持久力に優れた方が、勝つことになるのだろう。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。